アリの経済活動

いつの間にか、アリが進化を遂げており、知性が芽生えさせたというニュースがマスコミを賑わせました。


そのようなアリは、はじめ少数だったと思われますが、あっというまに旧世代のアリを駆逐し、今や凄まじいスピードでその勢力を伸ばしました。


ただ、人間に害がある訳ではないので、人間は何の働きかけも行いませんでした。


そうして、知性を獲得したアリは農耕や物々交換をするようになります。場所によっては言葉を話す種もあるようです。キーキー音を立て、何かコミュニケーションを取っているのです。


そのうち、ものづくりを始め、貨幣ができ、アリが経済活動を行うようになりました。人間の技術を真似して、鉄道や交通も発達しはじめます。飛行機すら作るようになります。アリが電気を活用するようになります。地下に有線を整備し、アリのコロニーとコロニーが繋がるようになります。じきに、彼らも無線技術を活用するようになります。彼らは電波ではなく、振動と光を使って無線通信を行うため、人間が使う電波とは干渉しません。今や、アリもスマートフォンをちまちま活用しています。


そんな風に、経済活動をしています。アリなのに、可愛いですね。そんなに技術を発展させて、何がしたいんでしょうか。


もちろん医療も発達していますから、アリの平均寿命も伸びました。しかし、人間にとっては微々たる違いです。


アリがそんなに賢くなっても寿命が伸びても、人間に踏みつぶされれば終わりです。結局、経済発展なんかしても、人間にはアリの区別はつきませんからね。人間がちょっと戦争でも始めたら、もう彼らのコロニーは終わりです。


人間はアリを小馬鹿にしていました。つかまえてきて、彼らの経済活動を小さな箱庭で観察できるようにするキットが売れていました。


しかし、運命は皮肉なものです。先に人間の方がその種の最後を迎えることになりました。それは疫病からくるものでした。アリの個体数が増えるにつれ、アリの社会では様々な疫病が発生することになりました。それは、アリの社会に大ダメージを与えましたが、彼らはなんとかそれを乗り越えるテクノロジーを身に付け、克服してきました。アリに対する疫病は、はじめ人間に影響するものではありませんでしたが、結果として、それははじめだけの話でした。人間の数よりもはるかに多い個体数を持つアリの様々な疫病が、人間にも感染するものに育つのにはそう長い時間はかかりませんでした。


それらの疫病は、世界中で同時多発的に発生しました。いつの間に、アリのコロニーが世界中に広まっていたのでしょうか? それはおそらく、アリは小さいので、どこにでも紛れ込むことができたからです。


疫病は1種類ではなく、何種類もの疫病が波状攻撃的に人間を襲いました。それは、人類の多くを死に至らしめる病でした。


そして・・・始まりました。はじめは、コントロールする人のいなくなった原子力発電所の爆発からでした。疫病はアリが運んでくることを知ったある政府は、自分の国に核爆弾を打ち込みました。


ある軍事大国の首都間近で水爆が爆発したことで、その国だけでなく周辺の数十の国々が壊滅したことは、まだ、人類の終わりを意味するものではありませんでした。


それを確実としたのは・・・結果、何が原因となったかは分かりませんが、人間が子孫を作れなくなったことでした。子孫を残せなくなった人間の最後の1代が死に絶え、人間は地球上からいなくなりました。


アリの天下の時代がやってきました。放射能に汚染された大地と水と空気はアリにとっても生易しいものではありませんでしたが、彼らはそれらを苦労して浄化しました。人間がいないので、無線通信に電波を使うことができるようになりました。人間が残した構造物や電子機器を借用して使うこともできます。しかし、それらはアリのサイズには合わないこともありましたが、それ以上に、それらはもう技術遅れとも言うべき過去の産物でした。


アリの技術はさらにさらに進化しており、宇宙にも進出し、その頑丈な体を活用して、別の星にも移住できる程でした。


しかし、彼らも人間と同じ悩みを抱えることになりました。人間に虐げられてきた自分たちが、ついに地球の支配者になることができたのです。しかし、それで得られたものは、目標の欠如でした。


他の星に移住できる程の技術を持つとは言え、隕石が衝突してくるわけでもないため、切羽詰って移住するモチベーションはありません。とすると、地球という閉ざされた星の中で、ただ同種族の中で協力し合い、時に対立し、戦い、生活をする。日常には多少政治・社会・生活の中で変わったことはあれど、全体でみると特になにも代わり映えしないまま長い長い時が流れていくだけ。人間のいない、アリを中心とした世界。


彼らも人間と同じ悩みを抱えることになりました。何のために生きているのかが分からないのです。


そこで初めて人間の哲学書が脚光を浴びることになりました。そして、宗教が再発見されることになります。そうして、すべてのアリが、宗教を持つようになるのです。