半沢直樹の大ヒットで浮上したジャニーズ不要論

半沢直樹がまだまだ話題である。
書店では、続編の「ロスジェネの逆襲」が売上1位継続中だし、ドラマ原作の2冊も10位以内を維持し、売れ続けている。


子供の小学校の男子の間では、「倍返しだ!」が大流行らしい。
(面白いもので、女子の間ではハヤっていないらしい)


最終回の視聴率42.2%は驚異の数字で、年末の紅白歌合戦とどちらが勝利するのかが今から話題になっている。年末が近づけば、再度盛り上がるだろう。


確かに、面白いドラマだった。原作も読んだが、素晴らしいエンターテイメント作品だった。原作に比べてドラマが劣っていない、むしろドラマの方が面白いと思わせる作品はなかなかない。


その理由は、大抵の作品は連続ドラマではなく映画化されてしまうということだ。1冊の小説の長編を、2時間弱の映画にして、その中で面白さを構成するストーリーを描ききるには、尺が足りないということだ。


比べて、連続ドラマだと、例えば今回半沢直樹では、1冊の本がドラマ5話分で描かれている。
1回が40分ほどで、連続ドラマの場合は時間を延長することができるため、要所要所でその手法を使い、ドラマを描ききるために時間を確保している。結果、半沢直樹の1話から5話の合計時間は260~280分ぐらいとなり、実に4時間半かけて1冊の本の内容を描き出していることになる。この、原作の面白さをあますことなく、ていねいに、時間をかけて視聴者に見せようとしたところに、勝利の第一のカギがあると思われる。


ポイントはもう1つあり、それが役者の力である。
よく言われるように、確かに堺雅人香川照之の演技は鬼気迫るものがあり、引き込まれた。他に、違和感のある配役はほとんどなかった。壇密は当初人気だけの配役かと思われて怪しかったが、小説版よりも重要な役回りとなったキャラクターを違和感なく演じていたと思う。あのキャラクターはストーリー構成上必要で、それこそ上戸彩には演じられないキャラなので、壇密で正解だろう。演技力さえ付いてくるのであれば、どんなタレントでもいいが、どうしても華のある女性が必要だった。


あと、鶴瓶が役をしている半沢の父の写真が額縁にはいって掲げられているところは笑ってしまった。


違和感を感じたとすればそのくらいだ。お笑い芸人も数人出ていたが、何の違和感もなくハマっていた。


それを言うと、ジャニーズも一人、いたらしい。
Hey! Say! JUMP」のメンバーである中島裕翔が半沢の部下役だった。しかし、ジャニーズっぽい空気感はなかったので、違和感なくハマっていた。


さて、重要なところは、キムタクはおろか、良く知られているようなジャニーズメンバーで視聴率を稼ごうというところが見られない点である。また、AKB48のような女性アイドルもいなかった。つまり、男性/女性問わずアイドル票はばっさり切り捨てている。その判断が功を奏して、半沢直樹がここまで支持されるに至ったと考えられる。重要なのは、「話はどうでも良くてそのアイドルの映像が見たいという視聴者を集めること」ではなく、「面白く重厚なドラマをきちんと見たいという視聴者を集めること」だからだ。


逆に、堺雅人が出るから、香川照之が出るから、と見た層もいるだろう。おそらくその層は、どちらかというと映像が見たいだけでなく、演技に注目する人の割合が高いだろう。だから、その層が半沢直樹にはバッチリハマると思う。


逆に、視聴率目当ての男性/女性アイドルを半沢直樹に出していれば、悲惨なことになったのではないだろうか。あれだけ演技力のある役者陣のなかで浮ついた演技をすると目立つ。そうならなくて良かったと心底思う。


ドラマ・映画はまず本、次に役者というのは正しいと思う。まず面白いストーリーありき。次に、それをきちんと観客に向けて再現するために演技のプロを使う。
もちろんアイドルの全てが演技に難があるとは思わない。味のあるいい役を演じられるタレントもいる。それはそれで、ハマり役になることは大いにあると思う。ハマる役があれば、それでいい。それは、本人も監督も観客も幸せになる構図だ。


しかし、あるアイドルが人気があるので、その人気にあやかって、まず出演を決めよう、次にどんな本にするか考えよう・探そうとするのは「真逆」であり「筋違い」だということだ。


もちろん、本ありきのドラマ作りが進めば、おのずと、俳優・役者を本業としている人たちが主に採用され、脚光を浴びる確率は増えると思う。しかし、それが正しい姿だと思う。結局それが観客・視聴者が求めていることなのだ。それを、今回半沢直樹は証明したのである。